2019年1月1日よりイギリス領ヴァージン諸島(BVI)において、BVI法人に現地にてオフィスを構えるなどの経済的実体(Economic Substance)を求める会社法が新たに可決され、2019年1月1日より施行されました。尚、BVIにて設立されたリミティッド・パートナーシップもこの要件に該当します。
背景
欧州連合による行動規範グループ(The EU code of conduct Group)は2017年にBVIの税制を査定しBVIを経済実体を必要とする国のリストへ加える方針を出しました。BVI政府は欧州連合(EU)と協力し、BVI法人における経済実体性の義務化を進めてきました。
その結果、BVI法人において2019年1月1日より経済実体を求める新しい会社法が施行されました。
適用
要求はBVIにて設立される現地居住法人及びパートナーシップにのみに適用されます。現地居住法人の定義はBVIにて設立された法人及びBVIにて活動する外国法人も含みます。
経済実体が求められる法人は以下の事業に限られます;
1. 銀行業務、以下の主たる事業を行っている場合:
2. 保険業務、以下の事業を行っている場合:
3. ファンドマネジメント(資金管理)事業、主たる業務が以下に該当する場合:
4. 融資及びリース事業、以下に該当する主な業務を行っている場合:
5. 統括本部
6. 航空運送事業、以下に該当する主な業務を行っている場合
7. 持ち株会社(ホールディングカンパニー)
他の株式会社の株式を保有し、その収入は傘下法人からの配当やキャピタルゲインを目的とする。
8. 知的財産事業(IPビジネス)、以下を含む
9. 配達及びサービスセンター事業、以下の主な業務を行っている場合;
新会社法にて定められている経済実体(Economic Substance)とは以下になります;
1. 法人の経営と管理がBVI現地にて行われていること。通常、法人の取締役はBVI現地居住者(個人)であることが求められます。または役員やその他の管理職者が現地居住者であることが求められます。
2. 経済実体が求められる該当事業を行っている法人は以下の条件を満たす必要があります;
a. BVI現地にて事業遂行能力資格を有する雇用者を雇う必要がある。(該当する法人にてまたは他の法人のいづれにて雇用契約を締結することが可能、また長期的雇用または短期的雇用のいづれも可能)
b. BVI現地にて支出があること
c. BVI現地にオフィスを構えること
d. 知的財産などを扱う事業の場合で特別機材などが必要な場合は、それらの機材がBVI現地にあること
3. 新会社法に定められる(上述の)「主な事業内容」のみが行われていること。
4. 該当する事業を行う法人において、その利益獲得活動を他社へ委託している場合において;
(i) BVIにて主な事業内容を行っていること
(ii) 該当法人が委託する他社の活動の監視管理を行うこと。当該法人がBVIにて経済実体があるかどうかの判断については、委託する他社においてその他社が当該法人に対して行っている利益獲得活動のみが考慮され、その他社が他の法人へ行っているサービスは考慮外となる。
持ち株会社については以下の条件が求められます;
a. BVIの会社法(2004年版)またはパートナーショップ法(2017年版)に基づいて設立された法人であること。
b. 持ち株管理を遂行する上で必要人数の雇用、及びオフィスがあること。他の該当事業BVI法人とは異なり持ち株会社の場合は雇用またはオフィスの保有はは必ずしもBVIにて行われる必要はない。同会社法8条、Subsection(b)、Section(2)によれば雇用及びオフィスはBVI内またはBVI外に持つことが可能。また、会社法では「必要人数」における数の指定は行っていない。
経済実体要件は2019年1月1日以降にBVIにて設立された全ての法人に対しては即適用されます。それ以前にBVIにて設立された法人については2019年6月30日まで要件に従う猶予期間があります。
全てのBVI法人は経済実体に関する証拠書類の提出が求められます、これを「Economic Substance Test(経済実体テスト)」と呼びます。IP事業を行うBVI法人はそもそもBVI現地にて実体活動を行っていないという前提があるため、IP事業を行う法人がこの実体テストをパスすることは非常に厳しいとみられます。これにはアフリエイトやライセンスから収入を得ているいわゆる「ハイリスクIP事業」も含まれます。
上述の通り、経済実体の要件はBVIにて設立された法人及びパートナーショップにのみ適用されます。BVIにて設立された法人は基本、BVIにて現地居住法人とみなされます。非居住法人ステータスを得るには、法人は非居住者によって運営されていることを証明する必要があります。(例、取締役がBVI非居住者であること、等)
尚、EUの発表するブラックリストに載っている国にてBVI法人が税居住ステータスを取得してもBVIにおける経済実体要件からの免除はされません。現在、ブラックリストに載っている国はアメリカ領サモア、グアム島、ナミビア共和国、サモア独立国、トリニダード・トバゴ共和国、そして米領バージン諸島です。
BVI法人の税務居住ステータスの判断を行うのは、各BVI現地登記代理店となります。各登記代理店は必要書類を取得し、BVI税務当局(International Tax Authority)に提出します。その際の必要書類はBVI税務当局にて決めるものではなく、申請BVI法人が税務居住ステータスを保有する国から発行される書類によります。
BVIにおける現地居住法人は以下の情報をBVI税務当局に提出する必要があります;
これらの情報は要求が施行されてから一年以内にBVI税務当局へ知らせる必要があります。よって、2019年1月1日以降に設立されるBVI法人は2020年1月30日までに連絡が必要となります。
これに従わなかった場合には当該BVI法人または責任者に対し以下の通りのペナルティーが発生します。
違反内容 | ペナルティー |
---|---|
経済実体要件の不履行、コンプライアンス違反 | 20 000 USDの罰金 |
ハイリスクIP事業における経済実体要件の不履行、コンプライアンス違反 | 50 000 USDの罰金 |
BVI税務当局からの2回目の注意通知後、まだ経済実体要件が不履行の場合 | 200 000 USDの罰金に加え、法人の登記自動抹消の可能性 |
ハイリスクIP事業において、BVI税務当局からの2回目の注意通知後、まだ経済実体要件が不履行の場合 | 400 000 USDの罰金に加え、法人の登記自動抹消の可能性 |
即決判決の場合において、必要情報の提供を行った場合及び故意に誤った情報の提供を行った場合 | 40 000 USDの罰金に加え/または2年を超えない懲役 |
起訴で有罪判決となった場合において、追加情報の提供要求に応じなかった場合やこいに誤った情報の提供を行った場合 | 75 000 USDの罰金に加え/または5年を超えない懲役 |
BVI法人をお持ちの方は、要求不履行による罰則を防ぐため以下の手続きを行う必要があります:
1. BVI法人を事業に含んでいる場合、グループストラクチャーの見直し、その中で現時点で非居住法人とみなされるBVI法人を特定する
2. 当該BVI法人において経済実態が要求される事業が行われているかの確定
3. 経済実体テストをパスできるかどうかの判断
4. 経済実体テストをパスするための証明書類の準備
5. 経済実体テストをパスしない場合、事業ストラクチャーの見直し
ゼットランドではBVIを含むオフショアでの法人設立・管理を行い、今回の経済実体要件に対する対応アドバイスも行っております。BVI法人をお持ちの方は弊社まで日本語で intray@zetland.biz までご相談ください。
(上記は2019年4月末現時点での情報になります、現地での状況は変化していますため最新情報は弊社までお問い合わせください)